お知らせ

腎臓がんの症例報告②

 

肝臓、肺転移した4期の腎盂がんにおいて、化学療法、キイトルーダによる標準治療が無効であったが、アルファ・ベータT細胞療法により寛解した例
※ LSI札幌クリニックは、瀬田クリニックグループの(特定連携医療機関)として医療連携を行っております。

乳がん①の症例 肺がん①の症例 すい臓がん①の症例 大腸がん①の症例 腎臓がん①の症例 

1.治療までの経緯

過去に卵巣がん、大腸がん、右腎盂がんなどの既往のある家族性腫瘍の患者さんです。これまでに罹患したがんは早期に発見され、手術で根治的に切除され、既に10年以上経過して、完治していました。

2020年9月、血尿があり、精密検査を受けたところ、左腎盂がんと診断されました。その時点で肝臓や肺へ多発転移しており、4期の診断でした(図1)。手術の適応がなく、2020年11月より化学療法(カルボプラチン、ゲムシタビン)が開始されました。

2021年2月のCTでは肝転移は縮小し、腎盂のがんも増大しておりませんでしたが(図2A)、2021年5月のCTでは腎盂のがんは増大し、さらに肝臓には新たに複数の転移の出現もあり(図2B)、2021年4月までで化学療法は中止となりました。

2021年5月から1回あたり240mgのキイトルーダによる治療を開始しました。しかし、2021年7月のCTでは肝転移は増大、腎盂もやや増大しておりました(図2C)。キイトルーダの中止も考えましたが、遅延した効果の発現の可能性も考えて継続することになりました。

しかし、9月のCTでは肝転移がさらに増大しており(図2D)、腎盂のがんも明らかに増大したため、キイトルーダは8月までで終了となりました。これ以上の標準治療はなく、当院を紹介されました。

2.治療内容と経過

2021年9月に当院を受診しました。患者さんの免疫機能の解析のために、T細胞をはじめとした各種の免疫細胞の測定を行ったところ、T細胞数は850/μLと健常人の平均値の2/3程度に減少しており、また、制御性T細胞は64/μLと健常人の平均値の2倍近くに著増しておりました。

この状態を改善するためにアルファ・ベータT細胞療法を開始しました。治療はアルファ・ベータT細胞療法単独ですが、その治療開始日は最終のキイトルーダ(240mg)の点滴日から51日後であり、少量のキイトルーダが残存していたと思われます。

アルファ・ベータT細胞療法を2週間間隔で4回施行した後の2021年12月のCTでは肝転移は著しく縮小、腎盂のがんも縮小し、部分寛解と判定されました(図2E)。

その後、2週間間隔でさらに2回のアルファ・ベータT細胞療法を施行、以後は維持療法として二ヶ月に1回のアルファ・ベータT細胞療法の方針としました。

トータルで7回のアルファ・ベータT細胞療法施行後の2022年3月のCTではさらにがんは縮小し、画像上はほとんど消失した状態です(図2F)。今後も慎重に観察しながら、数ヶ月に1回の治療を予定しています。

 

3.考察

肝臓、肺に転移した腎盂がんに対して化学療法および免疫チェックポイント阻害剤(キイトルーダ)を施行するもいずれも無効となった状態で免疫細胞療法を開始したケースです。

T細胞系の免疫不全、アンバランスが診断され、アルファ・ベータT細胞療法を開始し、すぐに寛解となりました。

4回のアルファ・ベータT細胞療法のみで大きな肝転移が急速に縮小するケースは少ないです。本ケースではアルファ・ベータT細胞療法の51日前まで通常量のキイトルーダによる治療を受けていました。

結果的に極少量のキイトルーダ併用の免疫細胞療法と同様の治療法になったことで強い抗腫瘍効果が得られた可能性が考えられます。キイトルーダの半減期は27.3日とされており、51日後は約1/4の量、すなわち、60mgのキイトルーダの注射を受けた場合と同様の量が体内に残存していたと考えられます。

キイトルーダ治療は無効であったものの、免疫細胞療法と極少量のキイトルーダの併用治療が奏効したものと考えられます。

今後は、患者さんとの相談の上、アルファ・ベータT細胞療法を数ヶ月に1回、維持療法として行う予定をしています。また、必要があればキイトルーダの追加も考えております。

ただし、免疫細胞療法とオプジーボの併用で寛解後、いっさいの治療を終了しても、その後、1年8ヶ月まったく再発のないケースも経験しており、経過によってはすべての治療の終了も考えています。

現状、オプジーボ、キイトルーダなどの免疫チェックポイント阻害剤無効例では、さらに免疫細胞療法などの免疫療法は行われることがほとんどありません。

本ケースのように、免疫チェックポイント阻害剤無効となった場合でも、さらに免疫細胞療法を行うことにより著効する可能性が考えられます。今後、十分に検証をしていきたいと思います。


瀬田クリニックグループの症例報告を元に作成(https://www.j-immunother.com/case/

5.症例報告のエビデンスレベル

※エビデンスとは

エビデンス(evidence)は日本語で「証拠」「根拠」という意味を指します。
医療の分野では症例に対して科学的に示した成果のことで、科学的根拠や裏付けとして使われます。

国立がんセンター情報サービスの記載を元に作成(http://ganjoho.jp/med_pro/med_info/guideline/guideline.html

※がん免疫細胞療法について
がん免疫細胞療法とは、身体のなかでがん細胞などの異物と闘ってくれる免疫細胞を患者さんの血液から取り出し、人工的に数を増やしたり、効率的にがんを攻撃するよう教育してから再び体内へ戻すことで、免疫の力でがんを攻撃する治療法です。この治療は患者さんがもともと体内に有している免疫細胞を培養・加工してがんを攻撃する点から、他の治療のような大きな副作用はなく、また抗がん剤や手術、放射線治療など他の治療と組み合わせて行うこともできます。治療の種類にもよりますが基本的には2週間おきに採血と点滴を繰り返す治療となります。当院では、治療に用いる細胞の違いや培養方法の違いにより、樹状細胞ワクチン、アルファ・ベータT細胞療法、ガンマ・デルタT細胞療法、NK細胞療法の四つの治療法を提供しています。


※リスク・副作用について:治療後、ごく稀に「軽い発熱、発疹等、倦怠感」が見られる事がありますが、それ以外、重篤な副作用は見られたことはありません。身体への負担が最小限の治療と考えています。

※治療費について:治療法にもよりますが、1種類の治療を1クール(6回)実施の場合、1,639,200円(税込1,803,120円)~2,239,200円(税込2,463,120円)が目安となります(検査費用は除く)。治療費の詳細はこちら