Ⅳ期の肺がんに対し、分子標的薬と樹状細胞ワクチン、アルファ・ベータT細胞療法を併用することにより、長期間、病気の進行を抑えられた一例
※ LSI札幌クリニックは、瀬田クリニックグループの(特定連携医療機関)として医療連携を行っております。
乳がん①の症例 すい臓がん①の症例 大腸がん①の症例 腎臓がん①の症例
1.治療までの経緯
2011年1月にリンパ節転移・多発肺内転移のある右肺の腺癌(臨床進行期:Stage Ⅳ)と診断され、同年3月初旬より化学療法(シスプラチン+ペメトレキセド+ベバシズマブ)による治療を4週間間隔にて開始しました。当院には同年2月末に受診、過去に採取した生検組織でがんの特徴を調べる免疫組織化学染色検査を行ったところ、この患者さんのがん細胞には免疫細胞の攻撃の目印が出ている状態だとわかった為、自己がん細胞感作樹状細胞ワクチンが最良の治療法と判断されました。
2.治療内容と経過
2011年3月初めに自己がん組織を使う為、右鎖骨上の転移リンパ節を切除し、そのがん組織から得た抗原を独自の最新技術(セル・ローディング・システム)を使って樹状細胞に取り込ませ、5月末より樹状細胞ワクチンを2週間間隔で行いました。
体内のT細胞を増加させる為、アルファ・ベータT細胞療法は、4月末に1回先行させ、その後は4週間間隔で治療を続けました。
化学療法を6月始めまで4回行い、免疫細胞治療を3回行った後、6月のCTでは原発巣および転移巣のがんが縮小していると判断されました。(Fig.1〜2)その時点でシスプラチン+ペメトレキセド+ベバシズマブの化学療法は終了し、7月より維持療法としてベバシズマブのみの治療を3週間間隔で継続し、がん細胞の遺伝子変異の結果からEGFRの変異があったため2012年11月からはベバシツマブと併用してエルロチニブを開始しました。
樹状細胞ワクチンは2011年12月までに12回行い、アルファ・ベータT細胞療法を2019年現在まで月に1回継続しています。2012年5月末のCTでも腫瘍は安定しており、エルロチニブ開始後の2013年5月初旬のCTではさらに原発巣の肺のがんは縮小していました(Fig.4)。
その後はタルセバとアルファ・ベータT細胞療法を継続することで長期の安定に入ります。
2019年までがんは若干の増大と縮小を繰り返しますが、7年近く、ほぼ安定して経過しました(Fig5,6)。
さらに、根治を目指して2019年4月には肺のがんを胸腔鏡下の手術で切除しました。切除組織の一部はネオアンチゲンの解析に使用しました。2019年9月の時点で画像上、確認できるがんはありません。
なお、ネオアンチゲンの解析は既に終了し、今後、万が一、再発徴候などある場合はネオアンチゲン樹状細胞ワクチンを行うこととしています。
3.考察
このケースは縦隔から鎖骨上までのリンパ節転移があり、また、肺内の微小転移もあったため、手術はあきらめ、薬物療法と免疫細胞療法で治療を行いました。幸い、治療が奏効し、腫瘍は縮小、さらに7年間にわたって長期にがんは悪化することなく安定した経過をとりました。
7年間の間に免疫細胞療法も進歩、発展しており、最新の方法であるネオアンチゲン樹状細胞ワクチンも選択可能となっていました。2019年に切除した組織を使ってネオアンチゲン解析も行えました。現状でも根治の可能性はありますが、万が一、今後、再発がある場合はネオアンチゲン樹状細胞ワクチンも試みることができます。
また、遺伝子パネルの検査も行い、適合する分子標的薬に関しても調査中です。薬物療法も免疫細胞治療も7年前とは違った新たなアプローチが可能となっています。長期の生存はそれ自体、がん治療の目的で有り、重要ですが、当初はなかった新規治療の登場に出会えるという大きな意義もあります。
瀬田クリニックグループの症例報告を元に作成(https://www.j-immunother.com/case/)
4.症例報告のエビデンスレベル
※エビデンスとは
エビデンス(evidence)は日本語で「証拠」「根拠」という意味を指します。
医療の分野では症例に対して科学的に示した成果のことで、科学的根拠や裏付けとして使われます。
国立がんセンター情報サービスの記載を元に作成(http://ganjoho.jp/med_pro/med_info/guideline/guideline.html)
※がん免疫細胞療法について
がん免疫細胞療法とは、身体のなかでがん細胞などの異物と闘ってくれる免疫細胞を患者さんの血液から取り出し、人工的に数を増やしたり、効率的にがんを攻撃するよう教育してから再び体内へ戻すことで、免疫の力でがんを攻撃する治療法です。この治療は患者さんがもともと体内に有している免疫細胞を培養・加工してがんを攻撃する点から、他の治療のような大きな副作用はなく、また抗がん剤や手術、放射線治療など他の治療と組み合わせて行うこともできます。治療の種類にもよりますが基本的には2週間おきに採血と点滴を繰り返す治療となります。当院では、治療に用いる細胞の違いや培養方法の違いにより、樹状細胞ワクチン、アルファ・ベータT細胞療法、ガンマ・デルタT細胞療法、NK細胞療法の四つの治療法を提供しています。
※リスク・副作用について:治療後、ごく稀に「軽い発熱、発疹等、倦怠感」が見られる事がありますが、それ以外、重篤な副作用は見られたことはありません。身体への負担が最小限の治療と考えています。
※治療費について:治療法にもよりますが、1種類の治療を1クール(6回)実施の場合、1,639,200円(税込1,803,120円)~2,239,200円(税込2,463,120円)が目安となります(検査費用は除く)。治療費の詳細はこちら