LSI札幌クリニックNewsline

免疫細胞治療を選択された方へ ― 安全性と運用体制について―


先日、瀬田クリニック理事長の後藤先生が、免疫細胞治療を含む細胞治療を取り巻く現状と、安全性に関する課題について、ブログ「今、問われる細胞治療の今後―1」にて見解を示されました。

私自身、LSI札幌クリニックの常勤医として日常診療に携わる一方、瀬田クリニックの医師として、免疫細胞治療の臨床研究、運用、ならびに安全管理にも関わってきました。

本稿では、後藤先生のブログで示された内容を起点として、連携医療機関であるLSI札幌クリニックの立場、そして現場で診療にあたる医師の視点から、その内容を受け止め、補足・整理してお伝えします。

免疫細胞治療26年の歩みと現在地

先日、瀬田クリニッ免疫細胞治療は、1999年3月、瀬田クリニック東京が民間医療機関として国内で初めて開始し、一般のがん患者さんに提供されるようになってから、すでに26年が経過しています。

この四半世紀の間に、がん治療全体、免疫療法、免疫細胞治療は大きく進歩し、それを取り巻く医療環境も大きく変化してきました。治療開始当初は、がん免疫細胞治療を専門的に提供する医療機関は他になく、瀬田クリニック東京が先駆けとして治療体制を構築してきました。その後、免疫細胞治療を提供する医療機関は全国的に増加し、再生医療やがん免疫以外の細胞治療を含め、多様な細胞治療が行われるようになっています。

2014年に「再生医療等安全性確保法」が施行されて以降、免疫細胞治療の提供計画を厚生労働省に届け出ている医療機関は、現在では500施設以上にのぼるとされています。

一方で、治療の裾野が広がるにつれ、施設間での治療の質、運用体制、安全管理の差が問題として顕在化してきているのも事実です。

2024年に報告された再生医療における重大事故

後藤先生のブログでも紹介されている通り、2024年末、厚生労働省より「再生医療等の提供によるものと疑われる敗血症(菌名:Pseudoxanthomonas mexicana)により、集中治療を要する入院症例が2名発生した」とのプレスリリースが公表されました。

報告内容を整理すると、細胞加工施設における細菌混入が、敗血症発症の原因と考えられています。
さらに、

•細菌混入を防ぐための管理体制が不十分であったこと
•事前に提出されていた再生医療等提供計画が遵守されていなかったこと

など、運用上の複数の違反が確認されました。
人に投与する細胞を加工・治療するには、高度な技術と同時に、極めて慎重な取り扱いが求められます。

細胞は医薬品のように滅菌することができないため、培養工程での混入防止管理に加え、万一混入が起こった場合でも、汚染された細胞が患者さんに投与されない体制が不可欠です。

重症がん患者さんに特有の感染リスク

重症ながん患者さんでは、原疾患や治療の影響により感染症を合併することがあり、感染部位から血中に細菌が侵入し、「菌血症」を併発するケースもあります。

採血時点で血液中に細菌が存在していた場合、培養工程でそれが増殖する可能性があります。
当院で提供している、瀬田クリニックおよびメディネット社が製造する免疫細胞治療では、こうしたリスクを想定した多重的な細菌検査体制を整えており、汚染された細胞が患者さんに投与されることは決してありません。

厳格な品質管理と25年以上の実績

当院の免疫細胞治療は、1999年の開始以来、瀬田クリニックおよびメディネット社と共同で構築された細胞培養・管理システムを基盤として提供されています。具体的には、患者さんへ細胞が投与されるまでに、複数回の細菌検査を実施しています。

この体制により、培養過程で細菌が混入した場合でも見逃されることはなく、誤って患者さんに投与されるリスクは極めて低く抑えられています。
これまでに

• 24,500名以上の患者さん
• 約210,000回の治療実績

がありますが、細菌混入による事故はもちろん、その他の重篤な医療事故も確認されていません。

本来求められる医師の条件

1.がん治療の専門性
がんの診断・治療経験のない医師が、免疫細胞治療を適切に行うことは困難です。
例えば、美容外科医や循環器専門医が、通常がん治療に携わることはありません。

2.免疫学への十分な理解
がん免疫応答を理解し、最新の論文を通じて知識を継続的に更新していることが最低限必要です。

現在は患者さん自身が多くの情報を収集できる一方、効果を過大に表現した情報や、誤解を招く内容も混在しています。正確な医学的知識に基づき、冷静に説明・助言できることが重要です。

3.細胞培養・細胞治療への深い理解
理想的には、実際に細胞培養を経験した医師が望ましいと考えます。

また、再生医療認定医など、細胞の取り扱い、安全管理について体系的な研修を受けた医師であることも重要な要素です。現実には、これら3条件をすべて十分に満たす医師は多くありません。

十分な準備や体制が整わないまま参入している例が存在することも事実であり、2024年の医療事故は、そうした課題を改めて浮き彫りにした事例であったと考えられます。

再生医療に今後求められる安全性の議論

2025年5月31日には、改正された再生医療等安全性確保法が施行されました。

免疫細胞治療や幹細胞治療を含む再生医療を、どのように安全性を確保しながら発展させていくかが、今まさに問われています。
また、2025年8月には、厚生労働省より細胞治療による死亡例が報告されました。

本件は免疫細胞治療ではなく、幹細胞治療によるものですが、いずれも同じ「再生医療」という枠組みで行われる以上、細胞治療全体としての課題やリスクを整理し、安全性を担保したうえで発展させていくための議論は不可欠です。

(出典:瀬田クリニック 後藤先生ブログ『今、問われる細胞治療の今後―1』https://www.j-immunother.com/blog/137staff/


【がん免疫細胞治療とは】
がん免疫細胞治療とは、身体のなかでがん細胞などの異物と闘ってくれる免疫細胞を患者さんの血液から取り出し、人工的に数を増やしたり、効率的にがんを攻撃するよう教育してから再び体内へ戻すことで、免疫の力でがんを攻撃する治療法です。
【リスク・副作用について】
免疫細胞治療は患者さん自身の免疫細胞を治療に用いるので、軽い発熱、発疹等が見られる場合がありますが、それ以外は重篤な副作用は見られず、身体への負担がほとんどありません。
【費用について】
治療にかかる費用は、1クール(6回投与)実施の場合、治療法にもよりますが、およそ1,800,000円(税込1,980,000円)~3,943,700円(税込4,338,070円)が目安となります(検査費用は除く)
※がん免疫細胞治療は自由診療(自費診療)です。健康保険は利用できません。